DancersWeb Vol.66

長瀬直義  Nagase Naoyoshi

長瀬さん顔写真.png
「人を応援してあげられるダンサーに」
バレエダンサー/バレエ・ボヤージュ主宰

スタジオNY・長瀬クラシックバレエスクールを主宰する両親のもとで育ち、物心がつく前から常にバレエが身近にあったというバレエダンサー・長瀬直義。2002年から東京バレエ団のソリストとして長きに渡って活躍後、現在は後輩の指導と舞台出演と両方をこなす。幼い頃の夢やこれまでのバレエライフについて率直に語ってもらった。

ー幼い頃に憧れのダンサーはいましたか?

 

すでに3歳から毎日バレエの中にいたので、憧れのダンサーという存在は特になかったかな。プロになってからは、ジョゼ・マルチネスが好きなダンサーになりましたね。

手脚が長くて父親と風貌が似ているところも少し親近感が沸くのかもしれない。遠くから見ても舞台のジョゼの存在感は一番だと思います。

 

 

ープロのダンサーに本気でなりたいと考えたのはいつ頃からですか?

 

結構遅かったんです。ロシア留学中の17,18歳頃でした。

ワガノワ学校に留学2年目の11月ぐらいだったんですが、自主レッスンしているときに、左足首を怪我してしまったんです。3週間ぐらいまったく動けなくなりました。

それでも上半身の筋トレは続けていたんですが、全然踊れない状態をはじめて経験して、ストレスが溜まった。踊れないことが、こんなにストレスになるなんて。

そのとき17,18歳ぐらいだったんですが、そこからですね。バレエダンサーに真剣になりたいと思ったのは。だから、その怪我がなかったらダンサーになっていなかったかも(笑)

 

でも脚を怪我したことで、日本の高校は卒業しておいた方がいいかなとも考えて、日本に帰国して1年間勉強して卒業し、またロシアに戻って1年間バレエを学びました。

 

ーダンサーになってなかったら、どんな職業を選んでいたと思いますか?

 

10代前半の頃から、中学校の数学の教師になりたかった思いがありました。

数学は得意だったわりに特に好きではなかったんですが、担任の数学の先生が

人間的にすごくあたたかく優しかった。

学校では一番怖い先生で知られていたのですが、面と向かって話してみるととても親身になってくれて、僕がバレエのレッスンで授業が受けられなかったときも、親切に補習してくれたり本当に愛情深い先生でした。

 

ワガノワに留学を決めたのは、いずれバレエスタジオを継ごうという気持ちがどこかにあったからだと思います。父親の、どんなことにも真面目に本気で取り組む姿勢に、子供ながらに尊敬の念を抱いていたと思います。

 

ー学生時代にバレエ以外で興味があったのものは?

 

バイオリンですね。

学校ではクラスメイトとバンドを組んで、僕はエレキバイオリンを弾いたり、ヴォーカルのパートも担当しました。でもあくまでも趣味の範囲でしたね。本気で音楽の道に進もうとは思わなかった。

 

 

ー東京バレエ団で多くの作品に出演されましたが、ターニングポイントとなった作品は?

 

「ギリシャの踊り」ですね。初演のときは必死すぎてあまり覚えていないんですが(笑)、

バレエダンサーとしての僕のイメージが確立されたんじゃなにかなと感じました。

人からよく言われたのは「爽やか」「青年」「中性的」ですが、純粋に嬉しかったですね。

 

ー逆に、これまでダンサーを辞めたいと思ったことは?

 

ないと思う。でも挫折感ならあります。東京バレエ団に入団して結構すぐ役を与えてもらい、「春の祭典」「ジゼル」「眠りの森の美女」などに主演させてもらいました。今振り返ると、少し天狗になっていたときもあったと思う。

 

2009年の「くるみ割り人形」で、僕は王子に選ばれなかった。「なんで僕じゃないんですか?」と先生に聞きに行ったぐらい、すごく悔しかった。そのとき、後輩の抜擢を素直に喜べなかったんですよね。東京バレエ団に入団して、最初に味わった挫折です。

そして、2010年に日本ではじめて日本人キャストで「オネーギン」が上演されることになり、僕はレンスキー役にキャスティングされた。その後輩はソリストでの出演ではなかったんですが、僕の肩をポンと叩いて「レンスキー頑張ってね」って明るく声をかけてくれたんです。そのとき、なんであのとき僕は応援してあげれなかったんだろうって情けなく感じた。

そのときの後悔が、今のバレエ学校の先生としての教えに繋がっています。

 

東京バレエ団付属のバレエ学校の男の子たちを主に指導していますが、

必ず生徒に伝えていることがあります。「人を応援してあげられるダンサーになれ」と。

 

僕は数学の教師にはならなかったけど、バレエの講師としても仕事をしているので

「先生」という思いは叶ったかもしれないですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー嬉しかった、励みになった言葉はありますか?

 

2010年の「オネーギン」の話に戻りますが、日本ではじめて上演されるということで、

ものすごく緊張したんです。一幕が終わったとき、リハーサルでの力が十分発揮できていないという悔しさがあった。その様子が伝わったのか、シュツットガルト・バレエ団芸術監督のリード・アンダーソンが僕のそばに駆け寄って「気持ちがあればちゃんとお客さんに伝わる。それだけでいい」って言葉をかけてくれたんです。よく「バレエはスキルだけじゃない」と言いますが、そうやって僕を元気づけようとしてくれたんだなと。そのときの彼の言葉は本当に胸に染みました。

 

余談になりますが、やはり「オネーギン」に出演するなら主演オネーギンを踊ってみたいと

男性ダンサーなら誰でも憧れると思う。でも、あのマラーホフでさえ、レンスキーしか踊っていないと聞いて、レンスキーを踊った人はオネーギンにはキャスティングされない宿命なのかも、と納得することにしました(笑)。

 

 

ーバレエを教えることにも深い愛情を感じます

 

東京バレエ団には10年間お世話になりましたし、その恩返しをしたいという

思いもあります。僕の「直義」という名前の由来は「素直に義理を持って生きてほしい」

という両親の願いが込められているんです。なので、お世話になった義理を果たすのは

ある意味僕の使命とも言えるかもしれません。

 

 

ー東京バレエ学校でプロを目指している男の子たちも指導されていますね

 

欧州のバレエ学校では4歳から身体能力等を測定して、試験を受け入学資格が与えられる。

そして無事に卒業できたらそのまま就職できるシステムがあります。対して日本の場合は、

入学金を払えば誰でも入れるので中学生からはじめて習う男の子もいる。力量が欧州の様に一律でないのでその難しさはありますが、やりがいがあります。

 

 

ー 2020年5月に板橋にて「バレエスタジオ・ボヤージュ」を

佐伯知香さんと開設されました。スタジオに込めた思いは?

 

「ボヤージュ」は旅立ちという意味のフランス語ですが、生徒には「このスタジオから色々な世界を見てほしい」という思いがあります。バレエ教室だけでなく、一度所属先を辞めると二度と戻れないとか、縛りがあるとか、バレエ界には結構保守的なところがあると思います。でも僕のスタジオは、自由に色々な世界に羽ばたいてもらいたいと願ってこの名前にしました。

 

 

ースタジオの特色を教えてください

 

オープンクラスと定期クラスの2タイプあります。

僕と佐伯先生は幼い頃から厳しい先生に学んできたのでしっかり細かく指導します。

バレエがダイエットになると宣伝しているところもありますが、僕はそう思わない。

芸術性を追求したい、高めるためのスタジオでありたいと思います。

下半身は一日では直らない。でも上半身は一日で直ります!

 

 

ーこれからの夢やプランをシェアしてください

 

今このコロナ禍の状況なので、まだ企画が進められていなのですが、

状況が良くなったら、オリジナルの振付で発表会を開催したいと計画中です。

能力がある男の子たちもたくさんいるので、男の子と女の子のキャストを

同じ人数だけ揃えて舞台に立たせたい。具体的なイメージもできあがっています。

 

そしてもう一つは、3つの物語それぞれの王子3人と、お姫様3人、悪役3人が同じ舞台に立って、オリジナルのストーリーが展開するという設定も面白いんじゃないかなと考えています。

 

 

ー今後の出演舞台について教えてください

 

2021年11月6日(土)と7日(日)に北千住のシアター1010にて中原由美子バレエ・

フレグランスの主催公演「くるみ割り人形」に、ドロッセルマイヤー役で出演することが

決定しました。

 

その前に、2021年7月8日(木)に新宿文化センター大ホールにて新作ロック・バレエ

「ROCK BALLET with QUEEN」に出演します。演出・振付は新国立劇場バレエ団の福田圭吾さんです。詳細は追って公開しますので楽しみにしていてください!

 

○新作ロック・バレエ『ROCK BALLET with QUEEN』

2021年7月8日(木)新宿文化センター大ホール

※チケット一般発売:2021年2月予定

https://www.dancersweb.net

○中原由美子バレエ・フレグランス

2021年11月6日(土)と7日(日)シアター1010

http://www.interq.or.jp/classic/yumiko/

 

○バレエ・ヴォヤージュ

見学自由。初回の体験無料レッスンもあり

https://balletvoyage2020.wixsite.com/mysite

 

【長瀬直義・プロフィール】

3歳から両親のバレエスクールでバレエを始める。

1995年よりペルミバレエ学校に短期留学。1999年より名門ワガノワ・バレエ学校に2年間留学。2002年東京バレエ団に入団、ソリストとして活躍。「ジゼル」のアルブレヒト、「眠れる森の美女」のデジレ王子、「春の祭典」の生贄、「ギリシャの踊り」ソロ、「ペトルーシュカ」青年、「付きに寄せる七つの俳句」月などの主役を務める。その他に「白鳥の湖」パ・ド・トロワ、「眠れる森の美女」青い鳥、「ラ・シルフィード」パ・ド・ドゥ、「オネーギン」レンスキー、「ザ・カブキ」勘平・塩治判官など、主要な役どころを踊る。2012年12月同バレエ団退団後は主に後進の指導にあたる。