Vol.63

菅野茉里奈  Kanno Marina

「 ”音楽を踊る” ことを忘れずにいたい」

ベルリン国立バレエ・ソリスト

  DancersWebマガジンの10月カバーインタビューは、ベルリン国立バレエ・ソリストの菅野茉里奈さん。当時の芸術監督兼ディレクターのウラジーミル・マラーホフから直接スカウトされ入団。その後、ナチョ・ドゥアト、ヨハネス・オーマンとサシャ・ヴァルツなど様々な監督のもと、第一線で活躍を続けているバレリーナ。

 恵まれた長い肢体と凛とした容姿は、まさにプリマの資質を持ち合わせているが、知られざる苦悩やこれまでのバレエライフについて語っていただいた。

 

 ― 3歳ですでにバレリーナになると決めていたお話しですが、プロになる前から憧れていたダンサーは?

 

 子供の頃に憧れていたのはやはり日本のダンサーでは森下洋子さん、斎藤友佳理さん。夏の講習会で友佳理さんに話しかけていただいたことがきっかけで、もっとバレエを本気でやろうと決意したことを覚えています。

 海外のダンサーでは、ディアナ・ヴィシニョーワ、ダーシーバッセル、ウリアナ・ロパートキナ、ヤーナ・サレンコ…などなど、たくさんいらっしゃいますね!

 

 ― 16歳でワガノワバレエアカデミーに単身留学されていますが、幼い頃から海外への憧れがあったと以前お話しされています。憧れのきっかけがあったのでしょうか?

 

 これというきっかけは特にないのですが、子供の頃からなぜか自分は海外に行くと思っていました。多くの方からも理由を聞かれるのですが自分でもよくわかりません。バレエだけではなく、読む本も手に取るものも外国のものばかりでした。今は逆ですが(笑)。

 

 ― 観客として観たバレエ公演の中で、一番印象に残っている舞台を教えてください。

 

 ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の公演だと思います。

年齢と経験によって興味と理解度は変わっていくものですので、数年前に同じことを聞かれていたら、またまったく違う返事をしていたかもしれませんが、NDTの動き、振付から感じる肉体的、心理的の深みにはいつも衝撃を受けます。

​ ― これまでのバレエ人生で、大きな刺激を受けたダンサー・振付家はいらっしゃいますか?

 

 ポリーナ・セミオノワ、ヤーナ・サレンコ、中村祥子さんは、間近で長い間一緒に仕事をさせていただき、大きな刺激を受けました。ダンサーとして、人として、アーティストとして私の理想であり、本当に素晴らしいお手本になるダンサーだと思います。

 

 振付家は、やはりナチョ・ドゥアトとマッツ・エック、イリ・キリアンのカリスマ性には圧倒されます。マッツ・エックとはシーズンのプログラム変更によって、残念ながら短期間のワークショップしかできなかったのですが、それでも忘れられない充実した時間でした。

 ― もっともターニングポイントとなった出演作は何でしょうか?

 

 イスラエルのホーフェシュ・シェヒター振付の「The art of not looking back」(ザ・アート・オブ・ナット・ルッキングバック)です。これは私のキャリアでのターニングポイントでした。まさか自分がこんなコンテンポラリーな作品を踊る、好きになるとは夢にも思っていませんでした(笑)。

 一番のギフトはリハーサルでのプロセスです。自分の踊りに対しての観念を覆す作品となりました。そこからたくさんの影響を受け、バレエや他の分野においても見方、受け取り方がまったく変わりました。コンテンポラリー作品を踊ることで、こんなにクラシックバレエにも深みが出るとは!経験して自分で体得するまで気付きませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 今振り返ってみて、一番つらかったできごとは何でしょうか?

 

 辛かったこと…ありすぎてわかりませんが(笑)、足の甲を二ヶ所同時に疲労骨折した時期ですね。まだ20代初めだったので焦りもあって、怪我をするということの意味がちゃんと分かっていなかったと思います。結局2年引きずりました。

 怪我は精神的にも身体的にもダンサーにとって一番辛いと思います。疲労骨折ごときで文句言ってはいけないとは思いますが…、一昨年も疲労骨折をしてそのときも完治まで半年はかかりました。

 

 ― どのような周囲の言葉、またはご自身の気づきでどのように立ち直れたのでしょうか?

 

 やはり一番心があたたかくなるのは、「辛いとき立ち止まっていつでも帰ってきていいんだよ」と両親に言われた言葉です。海外にいると、常に一人で強がってしまうので、このシンプルな言葉が心に沁みます…。

 

 人間は、過ぎ去ってしまえばネガティブな思い出は忘れるようにできていると信じています。どんなに辛くて、悲しくて、悔しくても時間は止まらない。

 毎日朝はやってくるし、どうにかしなきゃと最後に決めるのは自分しかいないので、少し立ち止まっても時間がかかっても、また失敗しても、とにかく少しずつ前に進めればと思っています。

 私は自分が自分で嫌になるくらい挫折と葛藤の繰り返しに日々ですが、友達や家族の精神的な助けなしでは乗り越えられなかったと思います。

 

 ― ナチョの『眠れる森の美女』に出演して、自身に大きな変化をもたらしたとのことですが、具体的にどんな点でしょうか?

 

 『眠り』もそうですが、『Multiplicity』(マルティプリシティ) もすごく影響を受けました。ナチョの音楽性、動きのセンス、スタイルを突き詰めること、良い意味での完璧主義、中途半端を許さない仕事の仕方にとても感銘させられました。

 

 一 記憶に残っている励まされた言葉、影響を受けた言葉はなんですか?

 

 人として一番影響を受けたのは、ワガノワ時代の恩師です。人間としても先生としても一番尊敬しています。その中でも記憶にあるのは、「音楽を踊る」と言われたことだと思います。その言葉で何かすごく考え方が変わりました。今も常にこの言葉を頭に入れて踊っています。

 ― バレリーナとしての美学を教えてください。

 

 自分の色を持つこと。バレエだけに目を向けるのではなく外、世界を大きな眼で見ること。受け入れること。

 

 ― 今後の活動予定や挑戦したいことをシェアしてもらえますか?

 

 カンパニー以外でのダンサーや音楽家とのコラボレーション、枠にはめられないダンスや自由な創作ができたらいいですね。撮影やフォトグラフィーにもずっと以前から興味を持っています。

 現在、ピラティスの教師資格も取っているので、そのスキルを活用してダンサーやアスリートの身体づくりやモチベーションの助けになれたら、とも思っています。

 今後については、コロナの影響で予定していた公演プランはすべてキャンセルになってしまい、残念ながらこれからの上演予定はまだ出ていない状況ですが、日本の皆さんにお会いできる機会がありましたら、すぐお知らせいたします!


【菅野茉里奈 プロフィール】
木村公香アトリエ ドゥ バレエを経て、ワガノワバレエ学校を卒業。2005年ウィーン国立歌劇場バレエ団、2007 年ベルリン国立バレエに入団、2010年よりドゥミ・ソリストに昇進。レパートリーは、マラーホフ版『眠れる森の美女』の歌うカナリアの精とフロリナ王女、「シンデレラ」の春の精、アシュトン版「シルヴィア」の子山羊、ラコット振付「ロマンティック・バレエの栄光」の「ラ・ヴィヴァンディエール」、バール版「白鳥の湖」のパ・ド・トロワ、クランコ版「オネーギン」のオルガ、バール版「ジゼル」のペザントのパ・ド・ドゥ、ドゥアト版「眠りの森の美女」のカナリアの精、フロリナ王女、プレルジョカージュ振付「ザ・ナイツ」、ドゥアト振付「マルティプリシティ/チェロ」など。

○公式URL
https://www.staatsballett-berlin.de/en/

https://www.prodancer.info/

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