Top Interview
益子 倭/バレエダンサー
「常にベストを更新してゆくこと」
2025' . Vol.114
Dancers Web トップインタビュー
― 10歳からバレエをはじめる前は何に熱中されていましたか?
サッカークラブに所属していました。劇団にも入っていて、アイドルに憧れていました。
「3年B組金八先生」に出たかった(笑)。それが、舞台で熊川哲也さんを見て、「あの人みたいになりたい!」と一気に切り替わりました。
実は、20歳のころ「眠りの森」というドラマに出演したことがあるんですよ。
(※東野圭吾・原作:バレエ界の複雑で切ない人間模様を描くミステリー。2014年TBSドラマ)
― 実際、バレエを習いはじめていかがでしたか?
「これがやりたかったんだ!」と、毎日楽しくてしょうがなかった。何かを表現すること、人前でアピールすることが自分に合っていたんだと思います。
― バレエ教室で、「男の子は僕だけだった」という話をよく聞きますが、どうでしたか?
当時習っていた埼玉のスタジオには、男の子が何人かいたので恵まれていました。その男の子たちは現在、カナダ、ポーランド、シンガポールなどでダンサーとして活躍しています。
― バレエをはじめてからわずか5年でイギリス留学されています。驚異の成長スピードです!
15歳で英国留学をした熊川さんとまったく同じルートを辿りたいと思っていました。
― 現地ではすぐに馴染めましたか?
日本人が僕以外に誰もいなかったのが良かったかもしれないです。フレンドリーに接してくれて、現地の友達はすぐできました。そして、これは両親に感謝なのですが、15歳で海外に行くと決めていたので、中学校からインターナショナルスクール通わせてくれました。
そのおかげもあって現地で言葉は通じたんですけど、クラスレッスンでコンテとかジャズとかこれまで経験したことがないスキルを習得するまで時間がかかりました。
― 10歳から一直線で迷いがないのがすごいです。質問に対する答えも、一切の迷いがないですね。
まっしぐらなタイプです(笑)。でもここまではハマったのは唯一バレエだけです。
― バレエダンサーでなかったら、ほかの選択肢は?
俳優業とアイドル活動(笑)。やはり表現する仕事を選んでいたと思います。
― Kバレエカンパニー(現Kバレエトウキョウ)の出演作でターニングポイントとなった作品は何ですか?
色々ありますが、『海賊』のアリと『アルルの女』のフレデリです。この2作品は主役を踊らせてもらったので思い入れが深いですね。そして、『くるみ割り人形』の雪の王。長年踊らせてもらったので、この作品の中で成長できたという思いがあります。
― 我を忘れるような、”ゾーン”に入った舞台はありますか?
これもやはり、『海賊』のアリと『アルルの女』のフレデリですね。
アリは、第2幕のパ・ド・トロワの登場シーンから、もう怖いもの知らず(笑)。周りの空気もすべてを支配できているというのかな。自分の周りで火が燃えているのが見えるような感覚。「なんでも来い!」の気分です。ずっと踊っていられます。
― 『アルルの女』のソロは体力的に結構きつそうですよね。
最終曲のファランドールからすべてが爆発!この時点で限界を突破しているので、どこまででもいける(笑)。
― これまでに、バレエを辞めたいと思ったことはありますか?
一度もないですね(キッパリ)。
― ご自分の中で納得がいかなかった舞台はどう気持ちを切り替えていますか?
僕は切り替えが本当に早いので、「次に活かそう!」で、それ以上悩まない(笑)。
― バレエダンサーとしての「美学」はありますか?
常にベストを更新してゆくこと、ですね。
― Youtubeの「やまちゃんチャンネル」の話もお聞かせください。
2020年に開始されていますが、様々なバレエダンサーとのカジュアル・トークがとても楽しいです。でもそれだけでなく、パの話題が出たときは、どんなパなのかの映像も出して、字幕でも補足説明されています。バレエへの理解を深めたいという深い愛情と誠実なお人柄が感じられて感銘しています。
そうなんです。編集に結構時間がかかるんですよ(笑)。
― いくつかカードを用意して、ゲストに選んでもらうコーナーも面白いですね。その中から逆に質問させてください。 「幸せを感じる瞬間」は?
舞台後のビール。間違いない(笑)。良い舞台のあとの一杯は最高です!
― 「バレエの舞台にまつわる珍事件」
子どものときに発表会に出演したとき、元々バレエシューズがぶかぶかだったんですが、踊っている最中に片方のシューズが吹っ飛んで、弧を描いて舞台上に着地しました(笑)。
そのまま踊り切りましたが、シューズを残したまま袖にはけたので、先生から「自分で拾ってこい!」と怒られた記憶があります(笑)。
― 「これまでの人生の中で買った一番高いもの」
車です。
― 「私のライバル」
過去の自分。あのときは良かったと言われるのは嫌ですね。今が一番良い状態でいられるようにしたい。若い頃より今の方が良いと言われたいです。
― 「生まれ変わったらもう一度バレエやりますか?」
やります!
― 「バレエダンサーに必要なもの」
バレエの情熱と愛。パッションは大事です。
― 「無人島に持っていくもの」
カメラ。自分がここにいた証を残していきたい。ここで生きていた、という記録を撮りたい。
― 今後の出演ですが、2025年1月8日(水)から1月10日(金)に大田区民ホール アプリコにて、石川県復興公演『ロミオ&ジュリエット』のマキューシオ役で出演されます。役への思いをお聞かせください。
マキューシオはムードメーカーででも正義感が強く、ロミオを引っ張っていくようなキャラクターですが、自分にとってやりやすい役です。
Kバレエカンパニーで踊らせてもらったことがありますが、命を落とすシーンで何回やってもOKが出なくて、自然と涙が流れてましたね。剣を落とすシーンひとつとっても、その角度が違うと全然異なる解釈になってしまう。
― 2018年の公演ですね。
ベンヴォーリオ役のファーストキャストに配役されていたんですが、マキューシオ役のダンサーが降板になってしまい、急遽代役で踊るかの選択を迫られました。熊川さんから「どうする?」と聞かれ、「両方やります!」と即答しました。結局、ベンヴォーリオ3回、マキューシオを1回踊りました。
― 本公演で主催・ロミオ役の高橋裕哉さんとは、Kバレエカンパニーでいっしょでしたね。益子さんから見て、どんなダンサーですか?
彼は日本人離れしたスタイルと、色気、雰囲気があるし、ジャンプも高くて柔らかい。自分にないものを持っているダンサーですね。
― 最後に、これからの野望や夢をシェアしていただけますか?
一つひとつの舞台を丁寧に全うしたい。動画配信も頑張ります!
そして、自然が多い環境の中でバレエスタジオをつくるのことも、いつか実現させたいです。
L’ART GROUP Presents
石川県復興公演『ロミオ&ジュリエット』
2025年1/8(水)~10(金)大田区民ホール・アプリコ
https://event.lartgroup.co.jp/
OWN THE STAGE JAPAN 『パキータ』
2025年5月5日(月・祝) 小田原三の丸ホール(大ホール)
(リュシアン : 益子倭、エトワール : 原田菜緒 )
https://www.unblanche-workshop.com/ownthestage
【益子倭プロフィール】
10歳よりバレエを始める。2006年英国RADツアーに参加。英国ロイヤル・バレエ団サマースクールに参加。08年Kバレエ スクールに入学。英国エルムハーストスクールに留学。10年第38回ローザンヌ国際バレエコンクール セミファイナリスト。同年東京で開催されたローザンヌ・ガラコンサートに出演。11年英国バーミンガムロイヤルバレエのジャパンツアーに参加。2012年4月、Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。2014年8月ファースト・アーティスト、2017年9月ソリストに昇格。2019年8月からフリーランスとして多方面で活動中。