Top Interview
大谷遥陽/イングリッシュナショナルバレエ・ソリスト

「嘘のない言葉で、嘘のない人生を」
2025' . Vol.120
Dancers Web トップインタビュー

―3歳からバレエを習い始め7歳からポアントという、まさにバレエライフまっしぐらなバレリーナですが、習いはじめてすぐ「私に合っている!」と感じられたのでしょうか?
母がいつも上手くリードしてくれていて、無理にバレエをやりなさいというタイプではなかったので、
常に楽しい気持ちで5歳まで過ごしていたことを思います。6歳ぐらいからなんとなく記憶がありますね。そのお教室の発表会で真ん中のポジションなどを踊らせてもらっていたので、もしかしたら人よりできること多いのかな、と。
でも、ほかのことの習得は遅かったですね。体育の授業?ほとんど何もできなくて、球技とかも全然ダメでした。唯一走ることだけは得意だったみたいで、小学6年生のときに50メートル走で上位に入ってしまい、バレエのレッスンで忙しかったのに、大会に出場するはめになりました(笑)
―バレエ以外にほかに習い事はされていましたか?
8歳ぐらいでバイオリンを習っていましたが、1年も続かなかったですね。お習字は5年間ぐらい習っていましたが、長く続いたのはバレエだけでした。
―学生生活ではどんな科目が得意でしたか?
高校生になってからは英語の授業が好きでした。バレエ留学を意識していたこともあったかもしれないですが、バレエは記憶力も大事じゃないですか。なので暗記する英語が得意だったのかもしれないですね。
―ローザンヌでファイナルに進めなかったことで余計に火が付き「限界まで練習する」とさらにのめり込んだというお話ですが、それほど駆り立てられたのはなぜだったと思いますか?
そこまで人生で悔しいい思いをしたことがなかったのが、一つの理由です。もうひとつは佐々木三夏先生の言葉ですね。三夏先生はコンクールの順位をあんまり気にしない先生で、結果が伴わなくても
「次に頑張りなさい」ぐらいだったのが、「なぜあなたがファイナルに進めなかったのか分からない」と
いっしょに悔しがってくれて、本当はファイナル行ける実力があったのかな。周りからも行けたはずと言われると余計に悔しいじゃないですか(笑)。
「ファイナル行けなかった人の方が、プロになってプリンシパルになる人がじつは多いんだよ」とも
励まされて、自分の頑張り次第でどうにでもなるんだな。誰よりも活躍してやる!と火が付きました。
たとえファイナルに進めなくてもプロになれるし、それを自分自身で証明したいと思いました。
―「動画を自撮りして徹底的に磨き上げる」という日々の鍛錬は単に負けず嫌いだけでは済まされない気がしますが、そこまで努力できるバレエの魅力は、どんなところにあると思われますか?
研究することが好きなのかもしれないですね。自分の身体を実験台として、こういう風にアプローチしたらこんなに変わるんだ!とか。
たとえば、肩甲骨の位置を変えてみたり、小指を意識するだけで、肩の入り方が違ってくるとか。自分で意識して踊ってみて、変わっていく過程が楽しい。努力すれば、だんだんできるようになるのが
バレエの魅力的なところですね。
プロになると、テクニックの面だけでなくてアーティスティックな要素が必要になってきます。色々研究を重ねて自分の成長を実感して、だんだん変わっていく姿を客観的に見るのが楽しい。
―バレエダンサー以外の職業を選んでいたとしたら、何になっていたと思われますか?
すごくお酒が好きなんです。だからバーテンダーかな。ピシッと制服着てシェイカーを振るなんてかっこいいじゃないですか(笑)。
―スペイン国立ダンスカンパニーのジョゼ・マルティネズに見いだされましたが、彼から教わった中でもっとも大切にしていることは何ですか?
今でも心に停めている言葉があります。踊り方も含めて大きく変化しました。スペイン国立ダンスカンパニーに19歳で入団して、とにかくがむしゃらにやる!いつも120%全力出す!の勢いで、毎日取り組んでいました。
そしたらある日、ジョゼから「あなたはやり過ぎ。頑張りすぎだよ」と言われて(笑)。
「70~80%で踊りなさい。そうでないと余裕がなくなるから、全力でやるな。Easy, easy.(楽に、楽に)」と。それ以降は、何をやるにしても常に余裕があるように心がけています。手を抜くのではなく感覚として、楽に踊る。
そうしないと、特に全幕ものは最後まで身体が持たないですし(笑)。余裕がある踊りの方が、観ている観客も惹き込まれると思いますし、今でも常に意識しています。
―2022年にイングリッシュ・ナショナル・バレエ団に移籍されて、約3年ですが、どうですか?
やはり先輩バレリーナたちの経験値が、スペインのときとはまた違うんですね。何年もプリンシパルとして実績があるダンサーたちと一緒に踊らせていただいて、それだけで日々学ぶことが多いです。
ミストレスの高橋絵里奈さんは40代のダンサーさんですが、毎日クラスを受けられてて、テクニックだけでなく、演技力や表現力の鍛錬を重ねている姿を見たとき、このカンパニーってすごいなダンサーがいるんだなと純粋に感動しました。私もこんな風に物語を入り込んで、どっぷり浸かれるようなダンサーになりたい。
スペインのカンパニー時代は、ダンサーの経験値はほとんどなかったのですが、今の環境は目指しているレベルがすごく高くなっています。トップの中のトップのダンサーはテクニックスキルは当たり前。
そこから、どのようにアーティスティックな方面に高めていくのか。もっと芸術性を求めるようになりました。
純粋にお客様を喜ばせたいという思いから、どのように感動してもらいたいのかを考えるようになりました。
―バレエダンサーとしての「美学」は何ですか?
踊りって本当に心情が出ちゃうんですよね。裸にさせられる思いです(笑)。
体力が極限に達したとき、そういうときにこそ巣が出る、本性が見えてくる。自分のことで精一杯のパのときでも、相手のダンサーとちゃんと目を合わせられるか(笑)。
体力的に精神的に辛いときに、それでも楽しく踊れるか。楽しさを求められるか、そういうことがとても重要だと思います。
―踊っているときに相手の性格が結構見えるんですか?
どうやって相手に手を出すのか、心から思っている表情なのか、表面的につくっている笑顔なのかが分かります。顔は笑っているけど、身体が乗っていないとか(笑)。
プロのダンサーでもたまに、この人は本当にバレエ好きなのかなと感じるダンサーもいますね。
―8月11日に大和シティバレエで「いばら姫」でダブルキャスト主演されます。
「いばら姫」は、グリム童話に登場する「眠れる森の美女」の別名だそうですが、リハーサルの状況はどうですか?
台湾のツアーの帰りに日本に帰国できることになり、先日1日リハーサルしました。3時間ぐらいでしたが、とても濃密な時間でした。良い意味で暑苦しいリハーサル(笑)。海外の振付家に多いのかもしれませんが、自分に敬意を払いなさいというような、ダンサーの上に立ちたいという方がたまにいます(笑)。
でも、本作の竹内晴美さんと三夏先生は、ダンサーと共にクリエーションする対等な立場で接してくれる。特に私は三夏先生の元生徒なのに、ダンサーとしてリスペクトしてくれる。このシーンはこういう意図があるからとクリアーに説明してくれますし、そういう面でもすごい方だと思います。
こういった環境でクリエーションに関われるのは恵まれていると思います。二人の振付に、ダンサーが色をつけてゆく過程は楽しいですね。良い作品になりそうですよ!
―主演ローザ役への思いもお聞かせ下さい
ローザは男勝りの性格なので、それが自然にお客様には伝わるように演じたいと思います。
オーロラ姫とはまた違うキャラクターに持っていかなくてはいけないので、違うアプローチを試みたいと思います。
ローザはお姫様という自分の立場がまだよく分かっていないんですが、だんだん愛を見つけて成長してゆくので、皆さんに共感していただけるようなローザになれたらいいですね。
―今後の展望や目標をシェアしていただけますか?
現在29歳ですが、さらに素敵に歳をとっていきたいですね。
嘘をついて生きたくない。偽物の感情を乗せて舞台で踊りたくない、という思いが強いです。
40歳ぐらいまで踊れたら嬉しいですが、その歳になるまでの今からの10年間を女性として、ダンサーとしてどう過ごしてゆくかで変わってくると思うので、心から踊れる、嘘のない言葉で、嘘のない人生をおくっていきたいと思います。
大和シティ・バレエ『いばら姫』
2025年8月11日(月祝)やまと芸術文化ホール メインホール
https://www.ycb-ballet.com/2025summer
【大谷遥陽 プロフィール】
3歳よりクラシックバレエを習い始め、2010年より佐々木三夏バレエアカデミーにて学ぶ。
2015年に現パリ・オペラ座芸術監督のジョゼ・マルティネズに招かれ、スペイン国立ダンスカンパニーに入団。入団後4カ月でドンキホーテ全幕の主役キトリを踊る。 2018年9月ソリスト昇格。
2022年2月イングリッシュナショナルバレエにソリストとして入団。資生堂やGQ などにもアーティストとして取り上げられる。
https://www.instagram.com/haruhi0309/