Top Interview
清水 愛恵/東京シティ・バレエ団プリンシパル
「舞台で成長できることは幸せです」
2024' Oct Vol.111
Dancers Web トップインタビュー
― まずバレエをはじめたきっかけを教えてください
あるとき友達が出演するバレエの発表会に誘われて観に行きました。舞台の内容はあまり覚えていないのですが(笑)。ただ単純に「あの綺麗な衣裳が着たい」と思った記憶があります。
母親に「バレエを習いたい」とお願いしたものの、一時的な気持ちと思われてなかなか習わせてもらえませんでした。1年間言い続けていて、小学2年生からバレエスタジオに通うことになりました。
― 衣裳から興味が沸いて、実際レッスンしてみていかがでしたか?
すぐに踊りが大好きになったという感覚より、先生から注意されたことは必ず直す!絶対に次に同じことは言わせない!という負けず嫌いな性格が先に立ったようです(笑)。先生から言われたことを消化し、成長していく達成感を味わっていった感じでしょうか。
― バレエダンサーを職業として意識したのはいつ頃からでしょうか?
高校生ぐらいからですね。進路をどうしようと考えたとき、私にはバレエしかなかった。意識しはじめた時期は遅い方だと思いますが、あまりコンクールに出場する機会がなく、プロを目指す同世代の子たちに会うことがなかったことも少し影響しているかもしれません。
― その頃、憧れのダンサーはいらっしゃいましたか?
「この人のようになりたい」というのは当時まだなかったのですが、とにかく自分のできることをやっていこうという気持ちでした。
― これまで出演舞台の中で、もっとも印象に残っている演目は何ですか?
出産後の復帰舞台となった「トリプル・ビル2022」です。ウヴェ・ショルツ振付の「Octet」第2楽章に出演したのですが、その舞台を踏むまでの過程が深く心に残っています。
出産後から1年も経たない中、ちゃんと踊れるのか、子育てとの両立はきついのか、どういう気持ちになるのか自分でも分からず、とにかく未知数でした。
― 実際、本番を迎えてどうでしたか?
落ち着いて踊ることができました。出産前より一歩引いて自分を客観視できるようになったんです。「自分ができることに集中してベストを尽くそう」と思えるようになった。
私に復帰してほしいと言ってくださった安達悦子先生にもパートナーにも感謝しています。
― ターニングポイントとなった舞台はなんでしょうか?
2022年にはじめて主演した「ジゼル」ですね。この作品は観客としてもとても好きな作品でした。それまで、ミルタやコール・ド・バレエは踊らせてもらっていたのですが、自分がジゼルを踊る想像はできていませんでした。
当時、ほかの舞台と並行してのリハーサルだったのでかなりハードでしたが、自分がジゼルを踊っている感動の方が上回っていました(笑)。踊るために学ぶことや知ることが多い作品で、物語を理解していく過程がとても楽しかったですね。
― そんな気持ちで迎えた本番はどうでしたか?
特に第2幕は緊張することなく役に没頭できたと思います。良かったところも改善点も今でも鮮明に覚えています。「ジゼル」に関してはもう一度踊りたい思いが強いです。主演して改めて深い作品だと感じました。観客として観ていたときと実際に踊ったときのギャップが一番大きかった作品でした。
― これまでバレエを辞めようと思ったことはありますか?
ないですね…。大きな怪我もなかったですし、私は辛ければ辛いほど燃えるタイプ(笑)。きついリハーサルでも楽しめます。すごく厳しい先生の指導でも自分のためになると思うのでまったく苦になりません。
― バレエダンサーとしての「美学」は何ですかと聞かれたら、どうお答えされますか?
「内面の美しさ」です。最近特に感じています。以前は、自分だけ良ければといいと思っていたところもあったかもしれません。出産を経験し、周りのサポートがあってはじめて、自分が舞台に立てていることを痛感しました。
周りに感謝する気持ちが増え、出産前より穏やかな気持ちで舞台に立てています。周囲の先生方からも、「いったい何があったの?教えて」と言われるぐらい、内面の変化によって踊りが変わったことを実感しています。
― 2024年の11月は、「白鳥の湖」の主演で再演されますね。2021年に全幕で初主演されましたが、3年前の舞台はいかがでしたか?
初演では、とにかく4幕まで踊り切ることに必死でした。
ダブルキャストの配役だったんですが、オデットとオディールの二役とも踊るのは私だけだったので孤独な闘いに立ち向かう気持ちで、気を張ってピリピリしていたと思います。心臓が1つでは足りない!という感覚でした。
― 再演に向けてどんな思いですか?
登場シーンとヴァリエーション、オデットとオディールの踊り分けなど、4幕までどれぐらい大変かが分かったので(笑)、今回は少し落ち着いて踊りたい。
体力の配分を考えて踊り切るのではなく、一つひとつ丁寧にステップを大切に繋げていって物語を進めていきたい。それぞれのシーンを味わいつつ、楽しみたいと思います。
― 今回相手役の浅田良和さんは、「トリプル・ビル2023」で共演されていますね。
バランシン振付の『Allegro Brillante』でいっしょに踊りましたが、はじめて組んだと思えない感覚で、引き出しが多いダンサーだなと思いました。今回もとても楽しみにしています。
ふたりの新鮮な空気感を良い方向に持っていきたい。どのように自分の良さを出せるかも追求したいと思っています。
― 今後の展望をシェアしていただけますか?
出産して歳を重ねて、いつまで踊れるんだろうと考える機会が増えました。
でも、実際舞台に立つことは発見や学ぶことが多いです。素晴らしい先生のクラスを受ける機会があっても、実際に自分が踊ってみないと完全に消化することは難しいと感じました。
今後、自分の引き出しを増やしていくためにまだ踊りたい、まだ踊れると思うようになりました。「この役を絶対に踊りたい」というより、与えられた役に向き合って、これからも経験し学んでいきたい。
― 最後に、メッセージをよろしくお願いします。
舞台に出ると色々な感情に向き合い、多くのことを経験できると実感します。成長できますし、とても幸せなことです。
今回再び『白鳥の湖』を踊る機会を与えていただき、先生方への感謝の気持ちが大きいです。今から気合が入っているので楽しみにしていてください!
東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~
〈演出・振付:石田種生、美術:藤田嗣治〉
2024年11月30日(土) ~12月 1日(日) 東京文化会館大ホール
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_001019.html
※清水愛恵は11月30日に出演
【清水愛恵プロフィール】
東京バレエ劇場にてバレエを始める。上原裕子バレエスタジオにて上原裕子に師事。モスクワ国立ボリショイバレエ学校短期留学。ティアラジュニアバレエ教室にて安達悦子らに師事。2009年東京シティ・バレエ団入団。2021年4月、プリンシパルに就任。『眠れる森の美女』オーロラ姫、『くるみ割り人形』金平糖の女王、『ロミオとジュリエット』ジュリエット、『コッペリア』スワニルダ、『ジゼル』ジゼル/ミルタ、『白鳥の湖』オデット/オディール、『ベートーヴェン交響曲第7番』(ウヴェ・ショルツ振付)、『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『L' Heure Bleue』(イリ・ブベニチェク振付/日本初演/東京シティ・バレエ団スペシャルバージョン)、『真夏の夜の夢』ティターニア/妖精(ソリスト)
その他、『サロメ』、『アーサー王』等のオペラ公演にも出演。
https://www.tokyocityballet.org/staff/staff_000047.html