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足立真里亜/東京バレエ団ソリスト

「私らしく踊っていきたい」
2023' Sep Vol.98
Dancers Web トップインタビュー

-北京中央バレエ団出身の諸葛亜軍先生の元で、3歳から習っていたそうですね。
諸葛先生は習った中でも一番厳しい先生だったんですが、生徒たちに大きな愛情がありました
-まだ幼いながらも「ちゃんと見てくれるから」という言葉にプロ意識すら感じます。その頃からバレリーナへの夢はあったのでしょうか?
私はバレエに向いてない身体つきということもあって、プロになる思いはまったくなかったです。先生は「バレリーナとしてのこの子の将来の責任は持てない」と親に伝えていたぐらいですから(笑)。
“バレエに惹かれて”というよりは、諸葛先生の一つひとつの動き、すべてに惹かれていたんだと思います。ただただ真剣に先生についていきたい一心でした。
-レッスンから何度も泣いて帰ってきたことがあったそうですが、辞めたいと思わなかった理由はなんですか?
私には4つ上の兄がいるのですが、小学生から大学生までずっと野球を続けていたんです。そうやってひとつのものに熱中している人がすぐ身近にいたので、そういうものだと思っていました。
-バレエダンサーでなかったらどんな職業を選んでいたと思いますか?
諸葛先生のスタジオで働かせてもらっていたと思います。
-当時憧れていたダンサーはいらっしゃいましたか?
新国立劇場バレエ団の堀口純さんです。
『くるみ割り人形』の金平糖役デビューの公演を観に行ったんですが、とにかく華やかで、舞台に立ったときの立ち姿、上半身の饒舌な動きなど色々な角度で輝いていて素敵でした。
-2015年に東京バレエ団に入団されてから、もっとも忘れられない出来事はありますか?
2016年に東京バレエ団が初演したブルメイステル版『白鳥の湖』のリハーサルのときの友佳理さん(東京バレエ団芸術監督・斎藤友佳理)の言葉が忘れられません。私は入団してまだ1年目で、コール・ドとして踊っていました。
リハーサルの最後に「みんなは私の自慢のバレリーナです」と言ってくださって、「私はここにいていいんだ」と、とても嬉しかった。
-これまでバレエを辞めようと思ったほど、苦しい時期を経験されたことはありますか?
辞めたいと思ったことは一度もないです。今そう聞かれ、苦しかった時期はいつだろう、と振り返ってみると、私がいかに周りにサポートしてもらっているのか改めて感じました。精神的に落ちそうになったときも、必ず周りに引き上げてくださる人たちがいる。本当に感謝しています。
-足立さんにとって日々のモチベーションは?
今まで生きてきて様々な経験をしてきました。その経験から学んだことは、「物事にはいつか必ず終わりが来る」ということです。私がバレエを踊り終えるとき、笑顔で終えられるように今を後悔なく積み重ねる。それが今のモチベーションです。
-踊りや意識が変わったターニングポイントの舞台はありますか?
2022年に主演した全幕のジョン・クランコ振付『ロミオとジュリエット』です。
演技に対しての視点が変わりました。演技は用意していて表現するものではなく、色々な人やものに対してのリアクションだと気づきました。演技もキャッチボール。準備して演技しても、相手の反応が違っていたらチグハグになってしまいますよね。
踊りの意識の変化としては新しいチャレンジだけでなく、再演の機会をいただけることも多いので、同じものを踊れば踊るほどこだわりや理想といったものが強くなっていることを感じています。
-その終演直後では、どんな思いを抱かれましたか?
「あー、終わった」という安心感です。
リハーサル中は、もうこれは終わらないんだと、ずっとずっと頭の中にあります。一生この役に、この作品に向き合わなければならないんだと。どの作品を踊るときも、幕が降りるまではいつもそう考えていますね。
-本番前はかなり緊張する方ですか。ルーティンなどありますか。
緊張するタイプですね。周りからも言われます(笑)
早めに袖に行かないようにしています。20分前に衣裳に着替えて、10分前にポアントを履く。緊張しちゃうのでギリギリまで舞台に行かないようにしています(笑)。
-2021年11月に金森穣振付「かぐや姫」の第1幕が初演されてから、2023年10月にはいよいよ全幕が世界初演されます。役への捉え方で大きく変わった点はありますか?
1幕は何もかも初めてでした。力強く泣く生まれたばかりの赤ちゃんのようなそんな生命力のある女の子を演じようと思いました。
2幕では新しいキャラクターの影姫も登場しますが、道児(どうじ)・帝などそれぞれのバックグラウンドがしっかりして、キャラクターが立っています。
一方で、かぐや姫は何しに地球に舞い降りたのか分からない。輪郭がぼやけているんです。
もしかしたら、周囲を取り巻くキャラクターが浮き立てば浮き立つほど、コントラストのようにかぐやの人物像を浮き立たせるのではないかと思いました。
自分がそれを決めて演じるのではなく、周囲の人物たちとの掛け合いによって、自然とかぐやの姿が見えてくるのではないかと思います。そのように取り組んでいきたいです。
-第1幕と2幕を通して、どのシーンがもっともチャレンジングでしたか?
どれもチャレンジングでしたが、強いて言うなら2幕の教育のシーンです。
私自身は相手に怒るときに、「もういいや」とすぐ諦めるタイプなんですが(笑)、舞台では、目線も強く拒絶感を出して表現するシーンだったので、どうすればいいんだろうと模索しました。
そういう自分の心に正直なかぐやの部分をどう表現するか難しかったですね。
-金森穣さんのリハーサルの中で、一番印象に残っている言葉はありますか?
2幕の通し稽古が行われたあとで、「感動を伝えるには、まず自分が感動しなくてはならない」とおっしゃった言葉が印象的でした。
自分が知らないことを説明することはできませんよね。まず自分で感じ、見て、触れること。それで初めて人に伝えることができる。ただ渡されたものをこなすのではなく、それを自分の心と身体を通して表現できるようになりたいです。
-第1幕と第2幕で衣裳がガラリと変わりました。「かぐや姫は何者で、なぜ月に還るのか―」も気になるところですが、第3幕はどうなりそうでしょうか?
結末がどうなるか、キャストはまだ誰も知らないんです。
道児役の秋元さん(プリンシパル 秋元康臣)と、ふたりは結ばれないんじゃないかなと話しているところですが、色々想像を巡らせています。3幕に繋がるように2幕の調整もしていて、舞台装置も少し変わるかもしれません。私たちも楽しみです。
-秋元さんの印象は当初と変わりましたか?
第一印象はクールな方。初めてお会いした時から素晴らしいダンサーで、まさか一緒に踊らせていただくようになるとは思っていませんでした。色々とお話しするようになって、明るくよく笑う方なんだなと印象も変わってきてとても魅力的だなと思います。
-今後の目標や挑戦されたいことは?
私は小さい頃からあまり野心がないんです。こうしていきたい、こうなりたいというイメージがないまま大人になってしまって、いまだに自分をアピールできない。それがコンプレックスでした。
バレエ団のみんなを見ていると強い意思や目標がある。それに比べて私はなんのために踊っているのかと思い悩むときもありました。
でも、それも含めて私なんですよね。そんなところも認めながら、私らしく踊っていきたいと思います。
東京バレエ団×金森穣『かぐや姫』全3幕 世界初演
【東京公演】2023年10月20日(金)~22日(日)東京文化会館
※足立真里亜の出演は10月21日(土)
【新潟公演】2023年12月2日(土)、3日(日)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/kaguya/
※アフタートーク開催決定(チケットご購入者の方対象)
[東京公演]10月21日(土)17:00〜17:30
[新潟公演]12月2日(土) 19:00〜19:30
※18歳以下限定・子ども無料招待あり[東京公演対象]
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/kaguya/u18.html
《足立真里亜プロフィール》
3歳よりバレエを始める。2015年東京バレエ団に入団。同年6月、『ラ・バヤデール』で初舞台を踏む。2022年4月にソリストに昇進。おもなレパートリーに、ブルメイステル版『白鳥の湖』の四羽の白鳥、『ドン・キホーテ』のキューピッド、『くるみ割り人形』のマーシャ、『ラ・バヤデール』のパ・ダクシオン、「影の王国」第1ヴァリエーション、クランコ版『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『ジゼル』のジゼル、金森穣『かぐや姫』第一幕および第二幕のかぐや姫などがある。
https://thetokyoballet.com/staff-and-dancers/index.html