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高橋 真之/元NBAバレエ団プリンシパル
「良い影響を与えられる人になりたい」
2024' Sep Vol.110
Dancers Web トップインタビュー
-まずバレエをはじめたきっかけを教えてください。
父親は新聞社に勤めていて、母親は学校の教師でしたが、姉がバレエ教室に習っていました。
ある日、姉を迎えにいっしょに付いていったとき、母親がバレエの先生に「この子は背中が柔らかいんです」となぜか僕を薦めていました(笑)。家で僕がストレッチしていているのを母親が見ていたらしく、幼いときから背中が柔らかかったんです。
習い始めた動機は不純で(笑)、ゲームソフトを買ってあげると母に言われて、ちょうどそのゲームが流行していたが時期で、10歳ぐらいでした。現在、新国立劇場バレエ団に所属している宇賀大将くんと同じバレエ教室出身です。
-同い年の男の子がいっしょだと心強いですね。
先生からの教えを、そのまま素直に聞いてレッスンしている子でした。厳しく注意されるときもありましたが、それは普通のことと感じていました。
-バレエをはじめる前にほかに熱中したものはありますか?
陸上クラブに入っていたんですが、身体を動かすのは好きでした。裏山に行ったり、基本的に外で友達と遊んでいました。
-高校卒業後の進路は、やはりバレエダンサーに絞ったのですか?
高校卒業時期に新国立劇場研修生オーディションに受けましたが落選してしまい、僕はバレエに向いていないんだと思い、一切バレエを諦めようとしました。小柄で動ける、爪先が綺麗という自信はある程度あったんですが、僕だけ一次審査で不合格になったことで、明確になったと思いました。
大学に進学することになったのですが、いっしょにクラスを受けていた友達がバレエ団入ったのを聞くと、大学生の自分と比べて、みんなの仲間になれていない感じで寂しかったですね。
-でもバレエを辞めなかったんですね。
大学に通いながら、スズキ・クラシック・バレエ・アカデミーに入所してボーイズクラスを受けました。同性だけのクラスは新鮮で、改めてバレエが好きだなと感じました。みんなで切磋琢磨しながらクラスを受けるのが楽しかったです。谷桃子バレエ団でプロとして踊っている友人にも出会って刺激を受けました。
またバレエが楽しくなってきたのは良かったのですが、大学の同級生とも馴染みきれないような、微妙な時期でした。
-その後、ワシントンスクールにスカラシップ留学されたのは快挙ですね!
ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)・10周年のコンクールに出場しないかと声をかけていただいて、せっかく誘ってもらったのには出たいと思いました。シニア部門で出場して3位に入賞し、大学を休学して20歳のとき1年間留学しました。
-海外のクラスはどうでしたか?
毎日すごく真面目に取り組みました(笑)。みんなからはマサと呼ばれて割とすぐに溶け込みました。このクラスで男性の基本テクニックの左回転やダブルトゥールなど、みっちり叩き込まれました。
-その頃、憧れのダンサーはいらっしゃいましたか?
ちょうどその頃、youtubeが普及しはじめた時期で、いくらでも見ることができたのは良かったですね。ミハイル・バリシニコフ、アンヘル・コレーラなど、空いている時間はずっと見ていました。特にバリシニコフのスマートさ、ほかのダンサーとは群を抜く柔らかさとキレ。表情、身体の強さ。何をとっても素晴らしい!
-バレエダンサーになってなかったら、何になっていましたか?
大学では理系の学部だったので、企業の会社員になっていたかもしれないですね(笑)。
-NBAバレエ団に2023年まで約10年在籍されていましたが、その間でもっとも印象に残る作品は何ですか?
入団2年目に出演したアントニー・チューダー振付の『葉は色あせて』です。
自分が本番どんな風に踊っていたかはあまり覚えていないんですけど、海外から振付家が指導に来て、みんな必死でがむしゃらに踊っていた記憶があります。とても充実した時間だったなと。
先日、ちょうどこの作品で使われたドボルザークの音楽を聴く機会があって、そのときの良い思い出が鮮明に蘇ってきて、心に残っている作品なんだなと改めて感じました。
-ターニングポイントとなった公演はなんしょうか?
2018年の、久保綋一さんと宝満直也さん改訂振付の『海賊』です。
僕は、アリ役を踊るのかなと思っていたんですが、海賊の首領コンラッドに配役されました。男らしい役を踊るのがはじめてだったので、色々悩みながら、身体づくりにも取り組んで、成長できた舞台になりました。
-2023年にも再演されましたね。
初演では、特に強い感情を込めて踊りました。綺麗に踊るよりも体当たりの演技を意識しました。2幕の最後の場面で、剣で戦うシーンがあるんですが、フェンシングの指導者の方がお芝居もすごく上手で、表情の作り方も教えていただきました。無駄に剣を振り回さないとか、距離感の取り方など、カッコ良く見える方法等々すごく勉強になりました。
-ダンサーとしての「美学」はと問われたら?
自己中心的な踊りにならないように、と常に思っています。「どうだ、かっこいいだろう!」という自己主張はしたくない。
元新国立劇場バレエ団の山本隆之さんのようになりたいです。パ・ド・ドゥのポーズもすごくかっこ良く決まっているんですけど、自分を強く出すことはなく、自然に決まっている。独りよがりではなく、自然な佇まい。そうありたいと思っています。
-これからの舞台のご予定をお聞かせください。
9月7日(土)に刑部・小林バレエスタジオ主催の『ラ・バヤデール』を上演します。ガムザッティを小野絢子さん、ソロルを刑部星矢さんで、僕はブロンズで出演します。
そして、2025年1月19日(日)に日本バレエ協会の『眠れる森の美女』に出演が決まっています。
-今後の展望などもシェアしていただけますか?
NBAバレエ団在籍中はバレエマスターのポジションにも興味がありました。
演出的な仕事にも興味がありますが、周囲に良い影響を与えられる人になりたいです。
バレエに臨む姿勢など、僕に教えられることがあったら、舞台でも常に人に何かを与えられるダンサーでありたいと思っています。
〈第2回GKBプロフェッショナルパフォーマンス〉
『ラ・バヤデール』
2024年9月7日(土)町田市民ホール
https://www.gkbworkshop.com/dai2kaigkbpro
日本バレエ協会
関東支部神奈川ブロック第39回自主公演
『眠れる森の美女』
2025年1月19日(日)神奈川県民ホール
【高橋真之プロフィール】
9歳より一の宮咲子バレエ研究所にてバレエを始める。一の宮咲子、一の宮英里子に師事。2009年より鈴木和子に師事。2010年よりWashington School of Ballet にスカラシップ留学。Kee Juan Han、Carlos Valcarcelに師事。帰国後、日本バレエ協会公演等に出演。2013年 NBAバレエ団入団。2016年 プリンシパルに昇格。「ケルツ」グリーンマン、「ガチョーク讃歌」le bananier、「ブルッフヴァイオリン協奏曲」ピンクカップル、「くるみ割り人形」王子、cavalier、「真夏の夜の夢」パック、「ロミオとジュリエット」マキューシオ、「ドン・キホーテ」バジル、「海賊」コンラッド、「白鳥の湖」王子等を踊る。2024年1月よりフリーとして活動中。
https://www.instagram.com/masa.takahashi.0921/