Top Interview
金子仁美/東京バレエ団ファーストソリスト

「自分らしさを追求していきたい」
2025' . Vol.116
Dancers Web トップインタビュー

―小学1年生からバレエをはじめたそうですが、そのほかに習い事をされていましたか?
当時、ピアノかスイミングのどちらかを習っている同級生の子たちが多かったので、私もスイミングを習い始めようかと考えていました。6歳上の姉がバレエを習っていて、その大変さをそばで見て感じていたので、自分にはバレエという選択肢がなかったんです(笑)。
―バレエをはじめるきっかけを教えてください。
姉のバレエ教室の送り迎えについて行ったとき、そこで出会った先生から「あなたは絶対バレエをやった方がいい」と勧められました。でも当初は、「バレエはやりません」ときっぱり断ったんです(笑)。
その後少し経って、姉の発表会を観に行きました。主役を踊る姉がとても輝いてみえて! 可愛い衣裳にも惹かれて“やってみたい”という思いが芽生え、レッスンに通いはじめました。
―先生方からどんなところが向いていると言われたのでしょう?
私の口からお伝えするのは少し恥ずかしいですが、「脚のラインが良いのでバレエ向きだ」と。でも幼い私にはその意味が良く理解できず……。“習い事の一つ“という気軽な気持ちでいたので、こうした周囲の期待感を少しプレッシャーに感じる部分もありました。
―いつ頃からバレエ熱が高まったのでしょうか?
小学2年生の頃だったと思います。発表会本番を3週間後に控える時期に、遊んでいる最中に高い場所から落ちて、頭蓋骨骨折をしてしまいました。頭を25針縫いました。“もしかしたら、発表会に出れないかもしれない”そう思ったとき、すごく悔しいという感情が沸いてきました。“どうしても出たい!”という気持ちが高まったんです。
私の思いに、教室の先生やお医者さんも「大丈夫できる! 頑張れ!」と応援してくださって、最終的に無事その舞台を全うすることができました。
―舞台ではどのような思いでしたか?
舞台で踊ることがとにかく楽しくて、踊り終わると、“生きてて良かった!”とまで思いました。おでこに傷用のテープをつけていたので、それを隠すために前髪を下ろして、ウィッグをかぶって踊ったんですよ。
先生オリジナルの『天使のオルゴール』というタイトルの作品でした。初めてソロを踊らせてもらいました。踊りきると、舞台袖で見守ってくださっていた方たちが泣いている姿が目に入りました。
今改めて振り返って、あのとき無理をしてでも出て良かったと思います。もしあの舞台を踏んでいなかったら、今の私はなかったかもしれないとさえ思うので。
―小学3年生で初めてプロの舞台を見て感動されたそうですね。
牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』を観て、“これが本物なんだ! 私もこんな大きな舞台に立ちたい!”と思いました。当時姉が牧阿佐美バレヱ団ジュニアバレエに入っていたんです。常に私の前を1歩も2歩も先を走る姉の背中をみて、自然と私も同じ場所を目指したいと思うようになり、小学4年生でオーディションを受けて週末都内にレッスンに通い始めました。
それまでは趣味としての“楽しいバレエ”でしたが、バレエと本気で向き合う同年代の子たちと出会ったことで、踊りに対してより真剣に向き合うようになったのがこの時期だと思います。
-東京バレエ学校Sクラス・第1期生だそうですが、いつ頃からプロのダンサーになろうと思われたのでしょうか?
小学校6年生のときの作文に「バレリーナになりたい」と書いたので、そのころにはすでに意識していたのかもしれません。
-2011年に東京バレエ団に入団されて以降、ターニングポイントとなった舞台は何でしょうか?
これまで出演したどの作品も、踊るたびに新たな刺激を私に与えてくれたので、一つを選ぶのが難しいですね。あえて挙げるとすれば、こどものためのバレエ『ねむれる森の美女』のオーロラ姫です。このとき初めて主役を踊るチャンスを与えていただいたのですが、リハーサルではスタミナが切れて、ローズ・アダージオの場面では納得いくかたちで踊り切ることができませんでした。それでも先生方が根気強く指導してくださり、そのおかげで本番は無事踊り切ることができました。未熟な私にチャンスを与えてくださった先生方に感謝しています。
2023年新制作の『眠れる森の美女』でついに本プロダクションでオーロラ姫を踊らせていただき、
これまでの努力がついに実ったと感慨深い思いに至りました。この“こねむり”が私にとってひとつのスタートになったと思います。
―いつも励みになっている言葉はありますか?
どちらかというと自分に自信が持てない性格なんです。姉や母に弱音を吐くと、「ひー(ニックネーム)なら大丈夫!」と励ましてくれます。その言葉を聞くと心が落ち着いて、「よし! 頑張ろう」とリセットできるんです。
-ダンサーを辞めたいと考えたほど、苦悩の時期を経験されたことはありますか?
数年前『くるみ割り人形』全国ツアー中に、肉離れを起こしました。
筋肉が凹んでしまったんじゃないかと思うくらいの怪我で、治療で一時的に回復したのですが、その後も再発するのではという不安を抱えながら踊っていました。
コロナ禍、バレエ団のスタジオで練習できない時期がありました。ようやく本格的なリハーサルが再開したとき、休んでいた身体に急に詰め込んだせいで、肉離れがぶり返してしまったんです。痛めている片方をかばうせいで左脚と右脚を交互に怪我をするようになってしまい、その時期はメンタルが崩壊しそうなほどでした。
昇進させていただいたのにもかかわらず、先生方の期待に踊りで応えることができず、自分はダンサーには向いていないんじゃないかとすごく悩みました。
-どのようにして乗り超えられたのでしょうか?
バレエ団の先生がたの「大丈夫! あなたなら乗り超えられる」という励ましが支えになりました。
それから結婚が大きな転機でしょうか。一番の味方がそばにいてくれる。パートナーの「踊っている
姿をまだまだ観たい」という言葉に勇気づけられます。
-バレエダンサーとしての「美学」は何ですか?
情熱を持って目の前のことに取り組むこと。自分を磨き続けること。
-4月26日に『眠れる森の美女』のオーロラ姫に主演されます。2023年11月に全幕初役で
主演されましたが、いかがでしたか?
これまで主演をさせていただいたことのある『くるみ割り人形』は全2幕で上演時間は2時間ちょっと。『眠れる森の美女』の全幕は3時間あるので、集中力と精神力が試された舞台でした。
終演後には、友佳理さん(斎藤友佳理団長)から「あなたをオーロラ姫にして良かった。これまで色々積み重ねて、この全幕に向けてステップアップしてきて良かった」と言葉をかけていただき、無事踊り終えた達成感と安堵感がありました。新制作という初演の機会に踊ることができたのも大きな経験でしたね。
―特に思い入れがあるシーンはありますか?
新制作版は、バレエ団全員がクリエーションに関わりながら創り上げていったので、どのシーンも思い入れがありますが、オーロラ姫が王子にキスされたあとに踊る第2幕ラストのパ・ド・ドゥのシーンでしょうか。主役を務めた3組がそれぞれ自分たちなりの振付を考え、それをもとに友佳理さんがアレンジして創り上げたシーンです。王子とオーロラ姫の初めての出会いであり、あたたかな関係性を見せる場面なので、ぜひ注目していただきたいと思います。
―オーロラ姫への思いをお聞かせください。
2023年の経験を活かし、すべてにおいてステップアップしたいと思います。特に第1幕、ローズ・アダージオとオーロラ姫のヴァリエーションはどちらも長いので、スタミナ配分を注意しないといけないのですが、そればかりを気にしてしまうと全力が出せなくなってしまう。
今回はどの場面も全力を持って踊り切りたい。今回は永久メイさんも特別出演されるので、刺激をいただきながら頑張りたいと思います。
-今後の展望をシェアしていただけますか?
プロのダンサーとして10年以上の歳月が過ぎました。たくさんの経験を積んできたからこそ出せる表現をより一層研究して、自分らしさを追求していきたいと思っています。そして、舞台の上でそのときをしっかりと生き、“またこの人の踊りが観たい”とお客様に思ってもらえるようなダンサーになりたいです。
東京バレエ団「眠れる森の美女」
2025年4月24日(木)~29日(火祝)東京文化会館
※金子仁美のオーロラ姫は26日(土)夜公演
https://www.nbs.or.jp/stages/2025/sleeping/
【金子仁美プロフィール】
6歳よりバレエを始める。2005年第3回バレエコンクールin横浜入賞4位。2009年エドゥケーショナルバレエコンペティション第5位、フランス留学許可取得。2011年に東京バレエ団入団。2012年子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』で初舞台を踏む。2017年子どものためのバレエ「眠れる森の美女」オーロラ姫初主演。2018年「真夏の夜の夢」タイターニアを務める。2019年『くるみ割り人形』主演デビュー。2023年初演『かぐや姫』帝の正室・影姫など、多くの公演で重要な役どころに出演。
https://thetokyoballet.com/staff-and-dancers/second-solo-artists/post-1.html