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堀内元/米国セントルイス・バレエ芸術監督

「毎日の積み重ねを大切にしてゆきたい」

2022' July Vol.84

Dancers Web トップインタビュー

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― 元さんといえば、やはりバランシンの最後の愛弟子としても有名ですが、とても劇的な出会いをされたそうですね。

 日本に日本に帰省中のあるとき父親から、ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)から電報が届いているぞって呼ばれたんです。
「次の舞台に君を使いたい。byバランシン」
「えー!バランシンが僕を呼んでる!?」
ということで、翌々日に飛行機に飛び乗りました(笑)。その頃はまだファックスはあまりなかったのでよけいにドラマチックだったのかもしれない(笑)。

― 直接オファーのきっかけは何だったのでしょうか?

 17歳の時、学校(スクール・オブ・アメリカン・バレエ)公演をバランシンが見にきていて、そこで、私がピーター・マーティンスのソロ作品を踊ったのを観て「こいつを使おう!」と思ってくれたらしく、「テクニックがあって、たくさん回れて、飛べるダンサー」と私のことを評価してくれたそうです。とにかく元気なダンサーっていう印象があったのかも(笑)。

― その出演舞台は、どんな作品だったのでしょうか?

 私の役は神々の使者(メッセンジャー)でマーキュリーという名前だったのですが、リハーサルは2週間で、公演6回のハードスケジュールでした。

短期間で創ったせいなのか、本番の翌日に振りを変えて、その翌々日にもまた変えての繰り返しでした。振りだけでなく衣裳も変わるので、よく観に来てくれて来た人からは「毎回日替わりメニューだね」って言われました(笑)。

 「Perséphone/パセフォニー」(ギリシア神話に登場する生と死との間を廻る大地の女神)という作品名で、ストラヴィンスキーの音楽と、2分半のソロを私に振り付けてくれました。
 衣裳はカーミット・ラブというセサミストリートでも有名なデザイナーで、共演者はバランシンの3番目の奥さんヴェラ・ゾリーナさん。銀幕のハリウッド時代のスターである人との共演でしたし、アメリカの舞台の歴史の1ページに登場させてもらったというのは、今振り返ってもとても感慨深いですね。

 リハーサルの最中にバランシンから「パリに行ったら、マーキュリー像を見なさい」と言われていたので、翌年のNYCBのパリ公演の際に、ルーブル美術館に行き実際にその像を観たのも、とてもよい思い出です。

ーバランシンさんから1年半ほど直接ご指導を受けられて、もっとも印象に残っていることは?

 

 彼との直接的な出会いは私が17歳 そのときで、それをきかっけにNYCBへの入団が許されたわけですが、「ダンサーとして頭を真っ白にして振付家に望むべき」という姿勢を学んだ気がします。バランシンは常に、自分の望むように動いてくれるダンサーを求めていましたね。

 いつもバランシンは、客席に一番近い1袖で毎回私たちの舞台を観ていたんですが、結構近い距離でしたので、威圧感はありました(笑)。「お客さんに対してというよりも、バランシンに踊るという感覚」というのはどのバレエダンサーも言っていましたね。

― これまでのバレエライフで、もっとも影響を受けた方はどなたでしょうか?

 もちろんバランシンはとても大きな存在ですが、その後を継いだピーター・マーティンスもバランシンが求めていた音楽性を追求していました。彼も1袖で毎回舞台を観てましたが(笑)、12年間彼のもとで踊れたことは大切な財産になっています。

―「Ballet for the Future」を2015年に初演されて以降、毎回持ってるこだわりはありますか?

 新しい作品を発表するにあたって、試験的な公演にはしたくないという思いは強くありますね。セントルイス・バレエでも高い評価を得た作品を日本に届けたい。ベストの作品を持っていきたいと常に思っています。
 回が進むにつれ、手応えを感じていますが、お客さんの観点から観て、面白いかどうかを大切にしたい。

― 演出面でこだわっている点はどんなところですか?

 

 クラシックバレエが原点なので、古典を大切にしながら、ネオクラシックと接点があるプログラムを考えています。チュチュを着て踊る作品から、発展・成長してゆく過程を見せたいと考えています。

― 振付家として、一番重要視されるのはどんな点ですか?

 まず構成。そしてストーリー性ですね。

お客様が流れを理解しながら最後まで観れるようなストーリー性を大切にしたい。途中で急に出てきて「この人たち誰?」とお客さんが「?」とならないように(笑)、自然の流れになるようにしています。

― 創作のインスピレーションはどんなところから得られるのでしょうか?

 曲ですかね。一見抽象的なコンテンポラリー作品でも底辺には必ずメッセージ性があると思うんです。なので日々の生活の中で、コンサートや舞台を観て、意識的に音楽に触れるようにしています。

―  振付家としてターニングポイントとなった作品はありますか?

 2013年にBallet for the Futureの前シリーズ「バレエUSA」に長年の友人でもある吉田都さんに出演依頼をして私の作品のひとつ「Romantique」を踊っていただいたのですが、その時彼女はその作品に彼女独特の息を吹き込んでくれました。

 振付家の想定を超えるというか、都さんが超えた作品にしてくれました。作品が倍ぐらいのパワーとなって舞台に出現したというか、とても素晴らしかった。そして、その時にもっと振付家として、ダンサーをより活かす作品を創りたいと痛感しました。

― 2021年の「BALLET FUTURE」〈バレエ×ジャズの饗宴〉では大阪で単独公演だったのですが、とても良い反響だったそうですね。

 お客様と舞台の一体感がすごくありましたね。立ち上がって手を叩いてくれたり
とても盛り上がりました。もちろんクラシックバレエでも皆さんからたくさん拍手を
いただきますが、ジャズ音楽が持つ力強いものを感じました。

― そもそもジャズ×バレエの発想はどこから生まれたのでしょうか?

 ジャズ・ピアニストのクロード・ボーリングの音楽との出会いが大きいと思います。友人のピアニストのナンシーさんから「クロードの音楽とバレエが合うじゃない?」という何気ない一言からはじまりました。
 音楽を聴いて早速クロードさんのパリの自宅に電話して、楽曲を使わせてもらうことに快諾してくれました。2000年にセントルイス・バレエで彼の楽曲ではじめて振り付けました。

―クロードさんの音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか?

 

 彼のリズム感とバレエがとても合うなと直感しました。

そして何よりカウントがとりやすいところ。バランシンも、ピアノやバイオリンなどのコンチェルトを多く使いましたが、シンフォニックな交響曲的な厚みがあり、カウントの取り方もはっきりしている。忠実にカウントが取れない楽曲だとダンサー目線では難しいのですが、彼の曲には共有できるものを感じました。

 クロードさんは様々なジャンルの演奏家で、チェリストのヨーヨー・マとも共演しているんですが、彼との出会いがクロスオーバーでした。

―2022年7月に東京で再演では、ヒューストン・バレエ プリンシパル加治屋百合子さんや現在国内外で活躍するバレヱダンサーも多く出演されますね。演出面での変更などありますか?

 毎回音楽が変わるところかな(笑)。
今回も「ジャズ・ピアニスト桑原あいトリオ」が出演してくれるんですが、あいさんがどんどん曲を変えてくるんです。

 あいさんは、指を鍵盤の上で力強く踊らせるかのように体全体で弾かれるので、我々ダンサーもそのようなあいさんが醸し出すパワーに引っ張られながら動く一体感みたいなものがものすごくあるのです。 

 

―1回公演ということなので、前日のゲネプロと本番とで変わるということですか?

 はい。即興ですね(笑)。でも小節の長さは同じです。たとえば、ここから12小節、64節とかは決まっています。インプロの長さがかなりありますが、途中の部分はまったく違うメロディーを弾いてきます。ドラムとの掛け合いでも変わってくるので、毎回刺激的です。

―ダンサーたちはちゃんと付いてこれるのでしょうか!?

 

 その辺、順応できる子たちなので頼もしいですね。
海外で踊ってきているダンサーばかりなので、順応性は高い。ダンサーたちのリハーサルの気構えと勢いがすごいんです。久しぶりに日本で踊るということもあると思いますが、みんな真剣勝負で向かってきてくれます。

―今回も、アメリカとヨーロッパや香港など、海外からたくさんのダンサーが揃いますね。

 高校生や大学生のダンサーたちをジュニアって呼んでいるですが、学生のときに群舞で踊ってくれた彼らが、海外で色々な舞台で踊って、またこの公演に参加してくれる。それが私の目指すところでもあり、彼らの成長ぶりがわかる。それが観れるのがものすごく嬉しいんです。

―今回、第1部で「タランテラ」を選ばれたのは?

 

 やはりバランシンは自分の原点でもありますので、彼との接点を必ず残したい。
私の企画では毎回、バランシン作品を上演しているので今回も思い入れのある作品を選びました。

― 今年も「ジャズ・ア・ラ・フランセーズ」に出演されますが、振付と出演を同時にすることの大変さは?

 作品の構成を考えているときは、客観的に創れるんですが、自分が踊るとなると全体像が掴みにくくなるのはありますね。
 ですが、リハーサルディレクターを務めてくださる宗田静子先生をはじめスタッフの方々が十数年いっしょに仕事してきたプロフェッショナルな方達なので、私のことをとても良く理解してくれています。とても有り難いです。

― セントルイス・バレエは正規団員22人、準団員16人、スクールの生徒が300人もいらっしゃるそうですが、来日公演との両立もかなり大変なのではないでしょうか?

 毎年日本で公演していることにちょっと後ろ髪を引かれるというか(笑)、好きなことをやらせてもらって申し訳ないなという思いもありますが、理解してくれているみんなに感謝しています。

 毎年を大切にして一歩一歩の積み重ねを大事にしたい。20年間続けてきて思うことは、やはり1年間で劇的に飛躍するってことはないんですよね。バレエダンサーってみんなそうでしょう?(笑)


 いきなり急に成長するってことはないんです。毎日実直にレッスンするしかない。
だから、私は来年そして再来年はどうしようかなと考えながら、毎日を大切にしている。
そういう生き方が自分に合っていると思います。


〈堀内元 BALLET FUTURE 2022〉
2022年7月26日(火) メルパルクホール東京
https://www.balletfuture.com/

 

【堀内元/Horiuchi Gen プロフィール】

米国セントルイス・バレエ芸術監督兼プリンシパル、振付家。ユニーク・バレエ・シアターを主宰する堀内完を父とし6歳から踊り始め、1980年にローザンヌ国際バレエコンクール・スカラシップ賞を受賞。スクール・オブ・アメリカン・バレエに留学する。1982年、ジョージ・バランシンに才能を認められ日本人として初めてニューヨーク・シティ・バレエに入団。アジア人で初めてプリンシパルに昇格。ブロードウェイ、ウエストエンド、東京での「キャッツ」出演、長野オリンピック開会式での振付担当など多彩に活躍する。2000年、セントルイス・バレエのプリンシパル兼芸術監督に就任、学校運営にも貢献。2010年より「堀内元バレエUSA」シリーズを立ち上げ、振付・出演する。2015年からは「Ballet for the Future」と題し、大阪と東京などで上演を重ねる。2015年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2021年、バレエそしてダンサーの新たな扉を開くべく「BALLET FUTURE」を始動。