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森優貴の最新ロングインタビュ-!貞松・浜田バレエ団 新制作 白鳥の湖 『The Lake』



 貞松・浜田バレエ団の2023−2024年度のテーマである「チャイコフスキー三大古典作品を、新たな演出と観点からジャンルと超えて取り組む」企画のもと、森優貴が振付を担う、創作リサイタル35 新制作 白鳥の湖『The Lake』。

  本公演を3月に控え、脚本・構成・演出・振付の森優貴がロングインタビューに応じてくれた。


―「家族と魂」の物語が描かれるとのことですが、その着想のきっかけを教えてください。

 

 この企画依頼を受けてから、3年ほどかけ準備を進めていた構想が当初はあったのですが、物理的に実現が困難であるという状況になり、再度改めて構想を練り直し、脚本を書き直すことになったんです。

「それなら、『白鳥の湖』の物語を維持したまま改訂振付をするのではなく、まったく違うものとして、思いっきり振り切ってしまおう。」と・・・それがきっかけです(笑)。

 

 また、私が日本に帰国して以来、世界的な流れを見てより一層強く感じる「分断」。

価値観、思想、主義、もちろん昔から宗教を理由に、民族を理由に、支配や奴隷や、文化や、多種にわたって同じく生まれてきた人間同士が「分断」を繰り返しています。

 

 しかし、日常では「私」には直接的影響はない、に等しいくらいの意識で過ごしていますよね。でも実際、そんな私たちの日常でもちょっとした「分断」が明確に感じられるようになってきました。

 家族内の分断もあれば、組織内の分断もあり、人間自身が意図的に「分断」を作り出す場合もあれば、状況や環境の変化によって発生する場合もあります。

 

 人間という生き物が、歴史的に繰り返し続けてきているのですが、もっと日常的現実で「分断」がはっきり目に見え、感じられるようになっていると私自身は感じています。

 価値観や、ものの考え方や、捉え方。ここ数年で変化を感じている人たちは多くいるはずです。きっと、皆が感じていますよね?


― 創作において、一貫しているテーマはありますか?

 

 「生と死」も、私たちすべての人間が経験し、また未知の世界の一つであり、一種の「分断」のような気もしますし、私たち人間が生まれてくることによって課される共通の流れです。

 

 私がドイツで活動していたときから、ほぼすべての作品といってもいいくらい一貫して根底にある「生と死」、「過去と現在、そして未来」、「肯定、受け入れること」。そして、「生き続ける」「救いを求め願う」ことが、やはり今回もテーマになっていると思います。

  

―『白鳥の湖』が持つ、「二面性」にも着目されたと伺いました。

 

 『白鳥の湖』が作品性質として持っている「二面性」を自分なりに捉え、作品の根底として構成しています。今回「大切な存在を失ってしまった人々」が、「残された者」として、どう向き合い、光を見出し、希望を見出し、生き続けていくか? そんな物語として脚本を書きました。

 

 悲運の事故により亡くなってしまった娘、その事故から過去に囚われ続けた母親、孤独の中で成長した息子、悲劇の現実から逃げ出した父親…。

 そして彼らを取り巻き、同じような境遇の中悲しみをたずさえながらも「今」を生きる人々と、湖畔に集う魂たち。家族4人を中心に「遺された人々」が集まり、互いの傷を癒やしあう、湖畔の一室の群像劇的物語から、解放された「魂が集う湖」での再会と再生へと展開していきます。

 

 たとえ、生まれてきた人体・意識・経験のすべてがなくなったとしても、残される人々の記憶や心や人生には魂として必ず生き続け、生き続けていく者達を見守っていると。

 

― 2時間近い大作となりそうですが、現時点でもっともチャレンジングな点はどんなところでしょうか?

 

 私自身が振付家として自分に嘘がなく、妥協がなく描かなければならい架空の物語、世界観を演者であるダンサーたちと共有し、身体を鍛えさせながら作品に取り組み、作品のために生きるという意識を持たせて託す、ということでしょうか。

 

 もちろん、その過程は毎度のことなのですが、振付家として『白鳥の湖』のような不朽の名作に挑むことは一生に一度きりだと思っています。

 自ら選ばなかったにしろ、このような作品と向き合い、新たに創ることで燃え尽きるように消耗する自分自身に対して大きな覚悟が必要ですし、そのような作品に挑むからには理想的条件の下ではなくても、自分自身を追い込み、ぶつかり、もがき、突破口を見出し、唯一無二の作品にしなければならないという強い思いが常にあります。

 

― 相当な覚悟が必要なんですね。

 

 そのためには、すべての制作過程で皆を同じ船に乗せ、同じ目的地に辿り着けるよう、船上員全員にすべてのイメージや音楽性、物語性、そして覚悟、すべてを迷わず共有しなければいけない。

 多くの制限の中、自分の経験を屈指し、制限があるからこそ生まれる「高質」な作品をと、自分を追い込んでいる最中です。

 

 日本という、文化芸術に対して欧州よりも保守的な国で、古典を新演出で取り組む中、創作者としての自分の経験とポリシーに逆らわないよう、自分に嘘がなく、後に後悔しない納得のいくものにしなければいけないと思っています。


― 今回もっともこだわった演出はどんなところですか?

 

 すべての分野に対して厳しい目を持ち、自分の感性と本能に導かれるまま、進行していますが現時点では、まだまだ創作段階です。

 こだわりは、まだまだこれからも増えていきますし、ダンサーとの創作だけではなく、照明と映像演出でも作品的に何一つの矛盾のない世界観作れるようにスタッフとも打ち合わせを重ねています。

 これまでの『白鳥の湖』を払拭しても、チャイコフスキーの曲と共に別の「湖の物語」を描くことにこだわっています。

 

 チャイコフスキー作曲「白鳥の湖」は私自身が何度もドイツ時代に踊ってきた曲で、作品ですし、自分の身体に細胞に音楽が刻まれている。

  だからこそ、チャイコフスキーの素晴らしい曲、曲質を視覚化し、時代を経ても、私自身、現代を生きる振付家の表現スタイルと完全合致すること、させることにこだわっていますね。

 

― リハーサルの進行状況はいかがでしょうか。

 

 ドラマ性を直接心で目撃するような「語られない言葉」で直接的に訴えかけれるように、1幕では役者に細かく演技をつけるように、役者に当て書きでセリフをその場で作るように、細かく砕いて渡す作業をしています。

 

 2幕では、ダンサーにとって個々の限界を遥かに超える、そして超えなければ成り立たないほどのフィジカル性を要求し、現在リハーサルを進行しています。

 体力的にも凄くハードですし、基礎体力を上げ、身体能力を上げ、そのためには精神力も必要です。作品にこだわるイコール、演者であるダンサーへの絶対の要求にもこだわりますし、その要求に応えさすための貫き方にもこだわります。

 

『白鳥の湖』に限らず、古典と呼ばれる作品において、新たにオリジナルで改訂版として創る振付家としての作業は、これまで数多くの振付家が世界各国で試み、世界中の劇場で上演を繰り返すことで、「不朽の名作」としていくつもの時代を生き延びてきたわけです。

言い方を変えれば、そうすることでしか時代と価値観の変化と共に生き残ってこれなかった。

 今回、私が新たに生み出す『The Lake』は、古典バレエ(その中にも沢山の異なる演出、振付が存在していますが)とは大きく異なります。

 

― どのような点が異なるのでしょうか?

 

『白鳥の湖』の根本的土台になっていると言われている「白鳥伝説」や「失われたヴェール」もしくは、ワーグナーの「ローエングリン」などの影響を受けた「白鳥」が登場する、本来皆さんが知っている物語ではありません。

オデットも王子もロットバルトも登場しません。


 異なることを目的としていますし、古典バレエからの進歩系、または設定を変更した物語や振付ではなく(よく言われる「クラシック作品をコンテンポラリーダンスで」という考えではなく)、異なる新たな物語を生み出すのが当然であると思っています。

  

― どのような作品になりそうですか?

 

 構成、演出に必要な身体言語(振付)が、私の音楽性と、私の今の身体から生み出されます。それは規定のマイムを通して物語進行されるクラシックバレエよりも、肉体的であり、感情的であり、官能的であり、直接的です。


 日々のレッスンで繰り返し行うクラシックバレエの表現技術とは異なり、今このリハーサル現場において、音楽やドラマ構成、感情の動きなどによって生み出される「この作品のための、慣れない身体言語」なのです。クラシックバレエの絶対的基礎力があるからこそ発展した身体言語でもあります。その身体言語によって、ダイナミックでドラマティックな、緊迫した繊細な作品になるのではないかと。

 

 ドラマ性を直接心で目撃するような「語られない言葉」が、より一層直接的に訴えかけるものになるのではないか、「生きて、燃え尽き、そして生き続ける」とはこういうことなのかもしれないと感じれるような作品になればと思っています。

 

― 最後に、バレエファンにメッセージをお願いします!

 

 まだ現時点では創作リハーサル中ではありますが、今回の新制作『The Lake』は皆さんが熟知されている『白鳥の湖』ではありませんし、メルヘンでもありません。

 善、悪。誓い、裏切り、愛の誓いと自己犠牲が悪を倒し、永遠に結ばれる物語はありません。

しかし、この作品には母、息子、娘、父をはじめとする家族、そして悲しみと恐怖に向き合い、語り合い、共鳴、共感しあい、もがき、救いの手を差し伸べようとする人々が登場します。

 

 肉体を離れた魂たちが光の粒子のように散っては集まり、希望を与え、「生きていくこと、生き続けること」への選択を迫り、導いていく物語があります。

 「現代」に生きる私たちが、目を背けることをできない苦しさや悲しみを目の当たりにする「日常」。

生き続けなければならないからこそ、愛に包まれる物語が「今」必要とされ、舞台上で展開されます。

誰もが知る不朽の名作だからこそ、時を経て姿を変え、新たな物語として生まれます。

ぜひ、ご覧ください。


○トレーラー映像はこちらから


貞松・浜田バレエ団 創作リサイタル35 新制作 白鳥の湖 『The Lake』

2024年3月16日(土)、17日(日)兵庫県立芸術文化センター



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