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池田武志

Ikeda Takeshi

「バレエは楽しまなきゃ意味がない」

​Vol.69

スターダンサーズ・バレエ団

 高い身体能力を活かしたダイナミックな踊りと豊かな表現力でファンを魅了しているスターダンサーズ・バレエ団の池田武志。2021年5月には、昨年中止となった公演『コッペリア』で初めてのフランツ役に臨む。あまり周囲に話したことがなかったという、これまでのバレエライフについてもじっくり語ってくれた。

 

ー 10歳でバレエをはじめたきっかけを教えてください

 

 その頃、名古屋に住んでいたんですが、妹が松本道子先生のバレエ教室に通いはじめて、

僕もいっしょに母とお迎えについて行っていました。そしてあるとき先生から

『身体が柔らかそうだから、あなたもやってみない?』と誘われて、気が付いたらそのまま入っていました(笑)」

 

―ボーイズクラスもあったそうですが、競争心はありましたか?

 

 その当時の小学生の頃は、気恥ずかしさもあってクラスメイトにバレエを習っていると言えなかったし、競争心という感覚はあまりなかったと思います。

 本気モードになったのは、埼玉県に引っ越して通い始めたアクリ・堀本バレエアカデミーでふたりの恩師に出会ってからです。そのスタジオではこれまでの雰囲気とガラッと変わって、スパルタ式のように厳しかった。「俺もバレエやんなきゃ!」という真剣な気持ちになりましたね。

 高いレベルの同世代の男の子たちもいたので、「負けているのは悔しい」という意識が生まれました。バレエ以外にサッカーとテニスもやっていたんですが、バレエほどあまりのめりこまなかった。可能性を感じさせてくれたのがバレエでした。

 

―もしダンサーになっていなかったら?

 サッカー選手にも憧れていました。それと日本史も好きなので歴史研究家になっていたかもしれないですね。

 

ーその頃の憧れのダンサーはいましたか?

 

 その当時からyoutubeや動画でバレエを結構見ていたんですが、レオニード・サラーファノフ(現ミハイロフスキー劇場バレエ)さんですね。こんなにのびやかに踊れたらどんなに楽しいだろう!ってとても惹かれました。

 そしてもう1人はつい先日他界されてしまったんですけど、パトリック・デュポン

(パリ・オペラ座バレエの元エトワール芸術監督)さんです。これだけのパッションがあって踊れたら素敵だと思いました。

 

―プロのダンサーとしての道を意識しはじめたのは?

 

 中学生になってからですかね。

バレエをやるぞ!という気持ちは常にありましたが、職業としてのダンサーという考えは結びついてなかったんです。でもあるとき先生から「ローザンヌ国際バレエコンクールに挑戦してみる気はないか」と言われて、僕にその資格があるのかな?せっかくだったら挑戦してみたい!という気持ちになりました。

 

― 初出場してみていかがでしたか?

 全然緊張しなかったです。これまで出場したコンクールとは違う仲間意識があって、バレエを純粋に楽しんでいる感じだった。色々な国の人たちとボディランゲージを使って接しているうちに、「これは自分ひとりの闘いでない」と感じたんですよね。

 

一このときまだ16歳でありながら大人びた感覚ですね。ローザンヌの出場前と後での変化は?

 

 大きく変わったのは「バレエは楽しまなきゃ意味がない」と気づいたことですね。

本番中に踊っている舞台で「自分が楽しめているこのときが最高なんだ!」を体感しました。スキル以上に、まずは自分が楽しめているかどうか。それまでは、先生に怒られないようという気持ちの方が強かったと思います。

 

 

 

 

 

 

― 今振り返ってターニングポイントといえる出演作は?

 

 ひとつに絞れませんが、ローザンヌで踊ったノイマイヤーさん振付の『スプリング・アンド・フォール』です。

 NHKの教育番組でルグリの「スーパーバレエレッスン」でこの作品を見て、「こんなにも音楽的な作品があるんだ!」と感動して、いつかハンブルク・バレエ団で踊りたいと思った作品です。なので、僕が出場したローザンヌの課題がノイマイヤー作品だったのは、すごくラッキーだったと思います。

 

ーとても運命的な出合いですね。ノイマイヤー芸術監督とのもっとも思い出深いできごとは?

 

 ノイマイヤーさんに唯一直接見てもらった作品が『ヨンダリング』なんですが、緊張と嬉しさが入り交じった気持ちでリハーサルに挑みました。「夢でしか会えない女の子を想って踊るシーン」を指導してもらったのですが、回りの男の子たちみんなは笑顔で踊っていたんですよね。

 でも僕はそんなに幸せな気持ちになるとは思えなかった。切なさの思いの方が強いんじゃないかと。それでノイマイヤーさんに直接聞いたんです。そしたら「私は君が思ったとおりに踊ってくれた方が嬉しい」と答えてくれて、「表現ってすごい自由なんだな」と解放されました。

 

ーハンブルク・バレエ団でもっとも慕っていたダンサーは?

 

 アレクサンドル・リアブコさんですね。

更衣室のロッカーが隣でした。尊敬してますし憧れのダンサーです。レッスンのときも必ず真後ろについていました。リアブコさんは普段とても気さくで優しい人なんですが、本番のシリアスな場面では憑依するんです。その憑依の凄まじさ!観客に対してそう見せるというよりは、彼自身の存在感が圧倒的でなんです。

 

― これまでもっとも励みになった言葉はありますか?

 

 新国立劇場バレエ団の『アラジン』で精霊ジーンに配役されたんですが、

ジーンをどう自分の中で落とし込めばいいか悩んでいました。ビントレー監督に相談したときに返ってきた言葉が「悩む必要なんてない。楽しんで踊って!」でした。

それまでは小柄で機敏なダンサーが踊る役という印象だったんですが、立ち姿で威圧感を重視していけばいいんだなと。

 

ー「僕はやりすぎてうるさがられるタイプ」とは?

 

 必要以上にパッションを出したくなるんですよ。

脚を上げてと言われると、必要以上に脚を上げてみせるとか(笑)。

「おいおい、そこまでやらなくても」という周囲のダンサーの反応も楽しんでます。

 

― ぜひ踊りたい!という役はありますか?

 

『ロミオとジュリエット』のマキューシュオですね。

こんなにも奔放で男気に溢れていてうらやましいなと思いました。

僕はやりすぎるタイプだから、どこまでやらせてもらえるか(笑)。

 

 もうひとつは、『ライモンダ』のアブデラフマン(サラセンの騎士)です。

悪役が大好きなんですよ(笑)。闇を抱えている役の方が人間臭さがあるし、

キャラクターを深く掘り下げる考察のしがいがありますね。

『白鳥の湖』のロットバルトのバックグランドを考えるのも楽しいです。

どうやって演じようか考えるのが趣味です(笑)。

 

―演技に深い興味を持ったのはいつ頃からでしょうか?

 

 ハンブルク・バレエ学校の頃からですね。

「心情がどうキャラクターに反映されているのか」を学校時代から教わってすごく興味が沸きました。たとえば今でも、まったく踊る予定がない役なのに、この役はここではどういう感情になるんだろうって頭の中で勝手にシュミレーションします(笑)。

 

ーこれまでダンサーを辞めたいと思ったことはありますか?

 

 こういう話はあまりしたことはなかったんですが、一度だけあります。

ハンブルク・バレエ団を辞めたときです。異国の地で一人で生活していてメンタル的にも辛い時期だった。それを断ち切ろうと帰国を決意しました。一度日本に帰って、自分とバレエの関係性を見つめ直そうと。

 

 重要な役をもらっていよいよ本番というとき、前日に靱帯を切って半年間踊れなくなったのですが、その怪我の前からもメンタル的にしんどい思いをしていました。

プロのダンサーとしてスタートしてから、上手くいき過ぎて自分の気持ちがついて来てなかったんです。

 上手くいっていると思われている周囲と、自分自身とのギャップがありました。

そのときその怪我も重なったりして、精神的に打ち勝てなかった。周りの人たちの期待に応え続けないといけないんだ、と肩に力が入りすぎて踊っていたんだと思います。

 

―どのように乗り越えられたのでしょうか?

 

 実際、自信を取り戻すは大変でした。

でも日本に帰国して「やっぱり僕はバレエが大好きだな」という思いからですね。

新国立劇場バレエ団に入団する前にも舞台を色々経験させてもらったのですが、

周囲からどんなに高い期待があったとしても、そのプレッシャーに屈することなく、自分は打ち込むしかない。その考え方に転換できたのは、帰国して1年後の20歳のときですね。

 最終的に答えを出すのは自分自身。自分をもっと信じてみよう。納得いく答えは、結局自分でしか出せないと思うんです。

 

ー5月15日にはスターダンサーズ・バレエ団の『コッペリア』にフランツ役で出演されますね。

 

 全幕でのフランツ役は初めてです。コッペリウスの家に忍び込むシーンも楽しんでやりたい。グラン パ・ド・ドゥのアダージオが一番好きですね。一番気持ちがあがるのが最後のパ・ド・ドゥのシーンです。

 

―スワルニダ役の渡辺恭子さんとはどのように役作りしていますか?

 

 恭子さんは経験者なので教えてもらいながらリハーサルしています。

何回も組んでいてお互いがどう動きたいかが分かっているのでとても組みやすいダンサーなので居心地がいいですね。

 

ーこれからの夢やプランをシェアしていただけますか?

 

 僕はバレエを楽しんで踊っていますが、自分が思うダンサー像に全然近づいていない。

もうちょっと完成に近い形に近づきたいですね。

 たとえば、リアブコさんのように舞台に出てきただけで空気が一変する。それだけで魅了されるような存在に憧れます。パッションと男らしさを持ったリアブコさんはまさに理想の究極形です。

 まず自分が楽しめて、お客さんにも満足していただけるのが一番理想的だと思います。

スターダンサーズ・バレエ団「コッペリア」
2021年5月15日(土)、16日(日)テアトロ・ジーリオ・ショウワ
https://www.sdballet.com/performances/2105_coppelia/


 

【池田武志プロフィール】
10歳の時に松本道子バレエ団にてバレエを始め、13歳の頃よりマシモ・アクリと堀本美和に師事。
第11回NBA全国バレエコンクール中学生男子の部2位。第6回バレエコンクールin横浜ジュニア2の部1位。2009年 第37回ローザンヌ国際バレエコンクールにてファイナリスト。ドイツのハンブルクバレエスクールへスカラシップで2年間留学。2011年 ハンブルク・バレエ団に入団。2013年 新国立劇場バレエ団に入団。2016年 デヴィッド・ビントレー振付「アラジン」にランプの精ジーン役で出演。2017年 スターダンサーズ・バレエ団に入団。

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